庭園の雨
北原白秋



松の葉の青きに

しとしとと雨はふる。

凄まじき暴風雨あらしの後に

針のごと雨はふる。


色黄なる毛虫は

土に沁みつき、

月見草は

萎れて白し。


桐、樅、無花果、

人工の盆栽の梅、

犯されし小娘か、みな、

泣き伏して声もなし。


しとしとと雨はふる。

浜の砂庭に吹き散り、

陸橋からばしの下には

傷つきし犬瞳を凝らす。


あまりにも静かなり、ただ、

腹切りし苦しさに

肩衣かたぎぬをはねのけし瀬尾せのを

その青き松の震慄わななき


かくて、わが終日ひねもす

針のごと雨はふる。

海見ゆる涼台すずみの破風に

光り、かつ、をぐらく。


雨はふる、しとしとと、

雨はやむ、またしばし、

夕されば血の如き虹

遂にまた海と空とに。

底本:「白秋全集 3」岩波書店

   1985(昭和60)年57日発行

底本の親本:「白秋全集 第二巻 詩集第二」アルス

   1929(昭和4)年1210

※本作品は底本の親本の「雪と花火」の「青い髯」に収められています。

入力:岡村和彦

校正:フクポー

2016年99日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。