巡禮紀行
萩原朔太郎



きびしく凍りて、

指ちぎれむとすれども、

杖は絶頂いただきにするどく光る、

七重の氷雪、

山路ふかみ、

わがともがらは一列に、

いためる心山峽はざまたどる。


しだいに四方よもを眺むれば、

遠き地平を超え、

黒き眞冬を超えて叫びしんりつす、

ああ聖地靈感の狼ら、

かなしみ切齒はがみなし、

にくしんを研ぎてもとむるものを、

息絶えんとしてかつはしる。


疾走はしれるものを見るなかれ、

いまともがらは一列に、

手に手に銀の鈴ふりて、

雪ふる空に鳥を薫じ、

涙ぐましき夕餐ゆふげとはなる。

─一九一四、一〇─

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房

   1977(昭和52)年530日初版第1刷発行

   1986(昭和62)年1210日補訂版第1刷発行

入力:kompass

校正:小林繁雄

2011年625日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。