秘境
宮沢賢治



漢子称して秘処といふ

その崖上にたどりしに

樺柏に囲まれて

はうきだけこそうち群れぬ


漢子首巾をきと結ひて

黄ばめるものは熟したり

なはそを集へわれはたゞ

白きを得んと気おひ云ふ


漢子をのこくろき双の脚

大コムパスのさまなして

草地の黄金をみだるれば

峯の火口に風鳴りぬ


漢子は蕈を山と負ひ

首巾をやゝにめぐらしつ

東に青き野をのぞみ

にと笑みにつゝ先立ちぬ

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房

   1980(昭和55)年215日初版第1刷発行

入力:junk

校正:土屋隆

2011年514日作成

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