職員室
宮沢賢治


歪むガラスのかなたにて

藤をまとへるさいかちや

西は雪ぐも亙せるに

一ひらひかる天の青


ひるげせはしく事終へて

なにかそぐはぬひとびとの

暖炉を囲みあるものは

その石墨をこそげたり


業を了へたるわかものの

官にあるは卑しくて

一たび村に帰りしは

その音づれも聞えざり


たまさかゆれしひばの間を

茶羅紗の肩をくすぼらし

校長門を出で行けば

いよよにゆがむガラスなり

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房

   1980(昭和55)年215日初版第1刷発行

入力:junk

校正:土屋隆

2011年514日作成

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