田園迷信
宮沢賢治


十の蜂舎の成りしとき

よき園成さば必らずや

鬼ぞうかがふといましめし

かしらかむろのひとありき


山はかすみてめくるめき

桐むらさきに燃ゆるころ

その農園の扉を過ぎて

苺需めしをとめあり


そのひとひるはひねもすを

風にガラスの点を播き

夜はよもすがらなやましき

うらみの歌をうたひけり


若きあるじはひとひらの

白銅をもて帰れるに

をとめしづかにつぶやきて

この園われが園といふ


かくてくわりんの実は黄ばみ

池にぬなはの枯るゝころ

をみなとなりしそのをとめ

園をば町に売りてけり

底本:「新修宮沢賢治全集 第六巻」筑摩書房

   1980(昭和55)年215日初版第1刷発行

入力:junk

校正:土屋隆

2011年514日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。