村のかじやさん
小川未明



 むらのかじやさんは、はたらきもので、いつもよるおそくまで、テンカン、テンカンと、かなづちをならしていました。

 ある、きつねが、あちらのもりで、コンコンとなきました。

 かじやさんは、「お正月しょうがつやすみに、きつねをとってやろう。」と、おもいました。

 かじやさんは、自分じぶんで、ばねじかけのおとしをつくりました。

 はたらきもののかじやさんも、お正月しょうがつには仕事しごとやすみました。

 ゆきがちらちらっています。かじやさんは、うらのはたけへおとしをかけました。

 ばんになると、きつねが、あぶらげのにおいをかぎつけてやってきました。

「おかあさん、こんなところに、どうしておいしいものが、おちているのでしょう。」と、ぎつねがふしぎがりました。

「まあ、あぶないことだ。これは、おとしというものです。さあ、はやく、こちらへおいで。」と、ははぎつねは、ぎつねをつれてゆきました。

「おかあさん、だれが、あんなことをしたの?」と、ぎつねがききました。

「だれがするものか、あのかじやさんだよ。」

「はたらきものだけれど、わるいひとね。」

「なに、わたしたちをそんなばかだとおもっているのでしょう。」と、ははぎつねがわらいました。

 かじやさんはまちへご年始ねんしにいきました。おさけをたくさんいただきまして、いい気持きもちでむらへかえってきました。途中とちゅうがくれてしまいました。けれど、かじやさんは「あ、こりゃ、こりゃ。」と、うたをうたいながら、じょうきげんでありました。このとき、あかいちょうちんをつけて、二人ふたり子供こどもがきかかりました。

「おじさん、おさけによって、よくあるけないのでしょう。おうちへつれていってあげましょう。」と、二人ふたりをひいてくれました。

「おお、勇坊ゆうぼうと、みっちゃんか、あしたあそびにきな。みかんをやるから。」

 かじやさんは、いいきげんでした。

「おじさん、もう、ここはおうちよ。おすわりなさい。」

 かじやさんは、いい気持きもちで、ぐうぐう、ねてしまいました。とりがないてをさますと、かじやさんは、おてらのかねつきどうにすわっておりました。

底本:「定本小川未明童話全集 11」講談社

   1977(昭和52)年910日第1刷発行

   1983(昭和58)年119日第5刷発行

底本の親本:「小学文学童話」竹村書房

   1937(昭和12)年5

初出:「セウガク二年生 1213号」

   1937(昭和12)年1

※表題は底本では、「むらのかじやさん」となっています。

※初出時の表題は「村のかぢやさん」です。

入力:特定非営利活動法人はるかぜ

校正:酒井裕二

2016年610日作成

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