干物
中原中也



秋の日は、干物の匂ひがするよ


外苑の鋪道しろじろ、うちつづき、

千駄ヶ谷 森の梢のちろちろと

空を透かせて、われわれを

視守る 如し。


秋の日は、干物の匂ひがするよ


干物の、匂ひを嗅いで、うとうとと

秋蝉の鳴く声聞いて、われねむ

人の世の、もの事すべてわづらはし

匂を嗅いで睡ります、ひとびとよ、


秋の日は、干物の匂ひがするよ

底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店

   1968(昭和43)年1210日改版初版発行

   1973(昭和48)年830日改版13版発行

※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。

入力:ゆうき

校正:木浦

2013年123日作成

青空文庫作成ファイル:

このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。