青空の梯子
原民喜


 二階の窓に桜の葉が繁って、彼は中学を休んだ。曇った朝の空が葉のむかふにあった。雀が囀った。


 怠けものはさきになって困るぞ、と誰も云はないが云ふ。それがちりちりと迫った。

 彼は左官になって一生懸命高い梯子を登り降りする姿を夢みた。懐中時計の字のない部分は白かった。

 正午前である。空がすっかり晴れて来た。

底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店

   1966(昭和41)年215

入力:蒋龍

校正:小林繁雄

2009年618日作成

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