鷹とひらめ
夢野久作


 ひらめが海を泳いでいますと、鷹が飛んで来て掴もうとしましたが、水が深いので掴めません。しかたなしに知恵を出してひらめにこう言いました。

「平目さん。もっとこちらの浅い処に来て御覧。お前の好きな餌が沢山あるよ」

 ひらめは笑ってこう返事をしました。

「あなたはほんとに御親切ですね。序に私を食べないで下されば、もっと御親切だと思いますけどもねえ」

 と言いながらズンズン深い方へ泳いで行きました。

底本:「夢野久作全集7」三一書房

   1970(昭和45)年131日第1版第1刷発行

   1992(平成4)年229日第1版第12刷発行

初出:「九州日報」

   1923(大正12)年1118

※底本の解題によれば、初出時の署名は「香倶土三鳥」です。

入力:川山隆

校正:土屋隆

2007年721日作成

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