新美南吉



熊は月夜に声きいた。

どこか遠くでよんでゐた。


熊はむくりと起きて来た。

檻の鉄棒ひえてゐた。


熊は耳をばすましてた。

アイヌのやうな声だつた。


熊は故郷を思つてた。

落葉松林からまつばやしを思つてた。


熊はおゝんとほえてみた。

どこか遠くで、

こだました。

底本:「日本児童文学大系 第二八巻」ほるぷ出版

   1978(昭和53)年1130日初刷発行

底本の親本:「赤い鳥」赤い鳥社

   1932(昭和7)年8

初出:「赤い鳥」赤い鳥社

   1932(昭和7)年8

入力:菅野朋子

校正:noriko saito

2010年129日作成

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