或る日の動物園
岸田國士



 鷲がその威風に似ず、低脳らしい金属性の声をたてた。


 支那の聖人に似てゐる駱駝が、唇をふるはせながら子供にせんべいを貰つてゐる。彼女は、それを見て、やつぱり日向ぼつこをしてゐるときが一番好きだと云つた。


 火食鳥は神主。駝鳥は DEMI-MONDAINE のなれの果て。


「さけい」といふ鳥の前で、彼女はまた、「農民ね」と呟いた。


 眠つてゐる獅子の檻に近く、長髪の男が、しきりに、「怒れる獅子の図」を描いてゐた。


 なまめかしきは黒豹。


 熊と川獺は友だちにもちたくない。

底本:「岸田國士全集20」岩波書店

   1990(平成2)年38日発行

底本の親本:「新選岸田國士集」改造社

   1930(昭和5)年28日発行

初出:「手帖 第一巻第二号」

   1927(昭和2)年41日発行

入力:tatsuki

校正:門田裕志、小林繁雄

2005年106日作成

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