「街はふるさと」作者の言葉
坂口安吾


 さわやかで、明るい、静かな物語をかこう。

 この物語の中の人たちは、金と女、愛と憎しみ、罪や汚れに困りぬいている。泥沼へおちてぬけでられない男もいるし、死に場所をさがす女もいる。誰か死ぬかも知れない。みんなの負うている宿命は暗いが、それは人間全部のものだろう。

 街にはザワザワと無数の跫音あしおとがむれている。泥棒の跫音も、パンパンの跫音も。しかし、人間のふるさとは人間の中にしかないと分れば、生きることほど、なつかしいものはないだろう。

 地獄の門をくぐりぬけて青空の下へでることもできる。ふるさとは、どこにでもあるのだ。どこも、かしこも、さわやかで、明るくて、静かなはずである。

底本:「坂口安吾全集 09」筑摩書房

   1998(平成10)年1020日初版第1刷発行

底本の親本:「読売新聞 第二六三五六号」

   1950(昭和25)年58

初出:「読売新聞 第二六三五六号」

   1950(昭和25)年58

入力:tatsuki

校正:花田泰治郎

2006年32日作成

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