「花妖」作者の言葉
坂口安吾


 この小説は今までの新聞小説といくらか違って、場面や事件が時間的な順を追うて展開せず、心理の流れに沿うて、時間的にも前後交錯し、場面と人物も常に変転交錯しつゝ展開して行きます。

 物語のかような心理的展開法は近代文学のあたりまえの型ですが、少しずつ毎日に分けて読む新聞小説では、前後の脈絡をたどるに不便ですから、余り試みられたことがなかったようです。

 作者は敢て新型をてらうものではありません。この形式が物語の最も自然な展開法で、今日の我々の情意にとって最も素直な分り易いものであり、作者にとっても語り易い方法であると信ずるからであります。

 幾人かの主要人物が各自独自の問題と生き方と事件をひっさげて、初めから交互に明滅変転しますから、人物と場面の変化の激しさになれるまで、初めは切り抜きでもとって読んで下されば幸じんです。

底本:「坂口安吾全集 05」筑摩書房

   1998(平成10)年620日初版第1刷発行

底本の親本:「東京新聞 第一五九二号」

   1947(昭和22)年216日発行

初出:「東京新聞 第一五九二号」

   1947(昭和22)年216日発行

※初出時の表題は、「新小説の予告」です。

入力:tatsuki

校正:藤原朔也

2008年415日作成

2016年415日修正

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