小説文體
泉鏡花



 僕は雅俗折衷も言文一致も、兩方やツて見るつもりだが、今まで經驗した所では、言文一致で書いたものは、少し離れて見て全躰の景色がぼうツと浮ぶ、文章だと近く眼の傍へすりつけて見て、景色がぢかに眼にうつる、言文一致でごた〳〵と細かく書いたものは、近くで見ては面白くないが、少し離れて全躰の上から見ると、其の場の景色が浮んで來る、油繪のやうなものであらうか、文章で書くとそれが近くで見てよく、全躰といふよりも、一筆々々に面白みがあるやうに思はれる、是れはどちらがいゝのだか惡いのだか、自分は兩方やツて見るつもりだ。

明治三十一年二月

底本:「鏡花全集 第二十八巻」岩波書店

   1942(昭和17)年1130日第1刷発行

   1976(昭和51)年22日第2刷発行

※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。

入力:高柳典子

校正:門田裕志

2003年81日作成

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